1995年受信報告

公益財団法人 日本中毒情報センター

1)都道府県別受信件数

1995年度総受信件数は37,268件であった。前年度に比べてわずかに減少した程度で,ほぼ横ばいであった(-4%)。過去毎年増え続けていた総受信件数は,昨年の阪神大震災以来今年も停滞した。これはダイヤルQ2が定常化したものの,その周知徹底が十分ゆき届いていないことや,確認のためにするなどの非緊急電話が情報料の有料化によって少し淘汰されたためと考えている。都道府県別対人口10万比受信件数に関する全国平均の29件は昨年とほぼ同じであったが,宮城県を除く東北地方ならびに四国地方において若干の減少がみられた。これらはいずれもダイヤルQ2不通地域であった。関東・近畿・東海の3地域の受信件数(28,326件)の全国構成比:76.5%は昨年並であった。この3地域の人口(7,470万人)の対全国人口構成比(59.9%)と比べると,これらの大都市地域への受信の偏重がかなり大きいといえる。このことは,対人口10万比(38件)が高いことからも肯定される。これらの関係は前年と変わっていなかった。

2)電話連絡者別起因物質(大分類)別構成比

本年度はサリンのような化学兵器による急性中毒に関する問い合わせはなく,起因物質別連絡者分布は全般に一昨年の1993年並に戻った。たとえば,医療機関の構成比でみる限り,農業用品の摂取事故に関しては医療機関からの問い合わせがほとんど(80.5%)であった。起因物質別には,家庭用品の摂取事故に関する問い合わせが大部分(70%)を占め,ほとんどが一般市民からのものであった。次いで,医薬品に関するものが19%であった。医薬品を医療用と一般用に分けると,両者はほぼ同程度の受信件数であるが,一般市民からは一般薬が,医療機関からは医療用医薬品が多かった。自然毒や工業用品は,有毒植物や危険物質が多いためか,医療機関からの問い合わせがかなり多いという傾向がうかがわれた。なお,今年度は全体的に医療機関からの問い合わせが,Q2導入に伴って医療機関専用回線を増設したこともあって多くなり,20%を越える結果となった。

3)電話連絡者別年齢分布

昨年同様に,一般市民からの受信件数は5歳以下の乳幼児によるものが92.4%を占め,医療機関他からのケース(47.4%)と有意な差がみられた。医療機関他からは20~64歳の成人層がかなり多く(33.5%),65歳以上の高齢者も一般市民に比べて件数,構成比率ともに多かった。これらは受信時有症率とかなり相関していた(表11)。対人口10万比受信件数では,1歳未満が895.7件で,昨年同様,成人層に比べて約190倍となり,きわめて高い件数である。1歳未満のうちでもほとんどが6ヵ月齢以上であるから実際は約380倍となる。したがって,1歳未満の層としてはその摂取事故件数はきわめて異常で,結局ほぼ50人に1件という割合になる。1~4歳の年齢層でも人口10万人あたり392.9件となり,成人層の81.8倍である。両層を合わせた5歳以下の乳幼児では人口10万人あたり492.5件となり,成人層の102.6倍の摂取事故が発生していることになる。これらの結果は1994年度とまったく類似していた。

4)起因物質別年齢層および性別比較

一般市民からの受信件数について,起因物質別に年齢層間の比較をすると,農業用品の成人および高齢者が優位であるのを除けば,家庭用品,医薬品,自然毒および工業用品などによる摂取事故が5歳以下の乳幼児で約60~95%を占めている。また,これらでは男児が女児よりも多いか同じ程度である。そして,20歳以上の成人または高齢者になると女性が多くなる傾向がみられる。

医療機関からの件数では,家庭用品を除けば20~59歳の成人層の摂取事故が40~63%を占め,さらに,医薬品を除くと男性が多くなり一般市民の場合と対照的である。これらの結果は,家庭用品を除けば1994年度と異なるが,原因は不詳である。

5)品目別 受信件数

6)起因物質別年間受信件数によるベスト5一覧表

表6は,表5の品目別受信件数の細目表から,受信件数の最も多い上位5」種類の品目名を大分類項目別に,一般市民と医療機関に分けてまとめたものである。全般に,ベスト5品目は若干入れ替わりがあった程度で,昨年度に類似している。家庭用品では,タバコ類が最も多く,乾燥剤,基礎化粧品,石けんおよび体温計が受信件数のベストファイブで,全起因物質を通じても同じランクである。医薬品では,医療用および一般用ともに昨年度とほどんど同じランク付けであった。しかし,農業用品で一般市民からの受信件数で注目すべき入れ替わりがあった。パラコート・ジクワット製剤が減少し,代わりに絶対件数は少ないがピレスロイド系殺虫剤がランクインされた。殺虫剤の一部に有機リン系からピレスロイド系に処方変更される傾向がうかがわれた。自然毒では,医療機関からの問い合わせにフグが増えてきた。フグについては,死亡例は激減しているが,中等症以下のフグ中毒が依然発生しているといえる結果である。なお,工業用品からサリンの受信件数がまったく消失した。しかし,催涙剤の受信はまだ今年度もみうけられた。

7)年齢層別発生動機比較

一般市民からの問い合わせのケースでは,どの年齢層においても不慮の事故によるものが圧倒的に多い(99.3%)。医療機関他からは,成人層において意図的摂取が約40%となる。また,高齢者層では不慮の事故が約80%となり,成人層と対照的である。

8)年齢層別摂取経路

一般市民,医療機関ともに経口摂取が最も多い(65~99%)。ただし,成人層では経口以外の摂取が多くなる。

9)摂取経路別発生動機

一般市民,医療機関ともに,いずれの摂取経路においても不慮の事故によるものが圧倒的に多い(80~99%)。意図的摂取は,ほとんど経口および吸入によるものであるが,とくに医療機関ではその割合が大きい(16.2%)。

10)発生場所と発生動機の関係

一般市民および医療機関ともに,不慮の事故および意図的摂取のいずれの発生動機においても居住内が最も多い。職場での事故は,ほとんどが農薬での散布によるものである。

11)年齢層別症状の有無の比較

一般市民および医療機関ともに,受信時有症状率が4歳未満の乳幼児ではきわめて低く(3.7~11.5%),5歳以上では一般市民で22.9~46.3%の有症状率を示した。医療機関では,49.7~74.2%の高い有症状率であった。とくに成人層では,表7に示したように,意図的摂取が多いため有症状率が最も高い(46.3~74.2%)。

12)起因物質別有症状率

一般市民では家庭用品と医療品のケースの受信時有症状率が5~8%で低い。医療機関では全般に有症状率が高く,とくに農業用品,自然毒および工業用品には危険物や有毒動植物があって,有症状率は高くなっている(20.9~81.3%)。

13)年齢層別回答区分(一般市民)

「直ちに受診」を要するケースが各年齢層とも昨年度を上まわり,全体で16.6%を占めていた。そして逆に「無毒」と判断されるケースの割合が昨年度に比べて有意に少なくなっていた。これらの結果は,一般市民からの「無毒」に相当するようなケースでの念押し程度の相談電話が,ダイヤルQ2を導入することによって自然淘汰されたことによるものと思われた。なお,この表では,一般市民からの問い合わせに対する回答区分データのみ示したが,医療機関に対する回答区分はすべてJPICの提供した情報に基づいて,医療機関の責任において処置が行われるため,回答区分はすべて「情報提供のみ」となるため,その件数は表2の医療機関からの全受信件数となるので省略した。