2010年受信報告

公益財団法人 日本中毒情報センター

はじめに

2010年も、自殺目的で硫黄含有製品と酸性洗浄剤を混合し硫化水素を発生させた事件や、マンホール内で発生した硫化水素により作業員1名が死亡する事故(茨城県)など、硫化水素による死亡事例、千葉県の化学工場で漏出した塩酸を従業員8名が経皮曝露し2名が死亡した事故、東京都のお祭り会場で食用のクリタケと誤ってニガクリタケ(痙攣、死亡の報告あり)が販売され回収指示が出された事件など、化学物質や自然毒に起因する中毒事件・事故が発生した。
(財)日本中毒情報センター(以下JPICと略す)では、11月に横浜市で開催された日本APEC首脳会議における救急医療・災害医療体制の一環として、首脳対応NBC班として化学テロ対応の準備を実施し、開催期間中は不測の事態に備えて現地医療対策本部や国際空港等で待機した。また、厚生労働省の委託事業「NBC災害・テロ対策研修」を2回主催し、2006年の開始時から5年間(11回)で107医療チームの研修を終了した。
さて、JPICでは情報提供手段として、オペレーターによる電話応答と、タバコ専用応答電話(テープによる情報提供)、インターネット、書籍、CD-ROMなどを引き続き活用している。2010年のタバコ専用応答電話の利用件数は10,976件(1日約30件)である。インターネットのJPICホームページへのアクセスは、一般市民向けではミラーサイトも含め約169,800件、会員向けは約5,500件であった。企業会員向けホームページへのアクセスは約900件であった。
本稿の報告対象は、オペレーターによる電話応答での受信記録のみであるが、すべて昨年同様の方法で集計解析し、その結果を以下に報告する。

1. 集計方法

集計の対象は、2010年1月1日から2010年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ36,435件である。受信データには一般市民専用電話、医療機関専用有料電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。なお、対象には「タバコ専用応答電話」の利用件数10,976件は含まない(この件数を加えると2010年1年間にJPICが受信したタバコに関する問い合わせ件数は14,663件となる)。起因物質については、昨年と同様、複数物質を摂取した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。

2. 集計内容とその結果

1)都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ

対人口10万比は例年と比べて全国的に大きな変動はみられなかった。また、両中毒110番の位置する関東および近畿からの問い合わせ比率は、例年同様に高かった。

2) 起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ

問い合わせの86%が一般市民からで、医療機関からは12%であった。
例年同様の傾向であるが、いずれの連絡者においても家庭用品に関する問い合わせが最も多かった。とくに、一般市民からの問い合わせは家庭用品が68%と圧倒的に多いが、医療機関からは家庭用品40%、医薬品37%、次いで農業用品、工業用品の順で、様々な起因物質の問い合わせがあった。

3)患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ

全体をみると、5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが79%を占め、対人口10万比では他の年齢層の50~100倍に相当するという例年同様の構成比を示した。
連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが87%を占め、医療機関では56%の問い合わせが20歳以上の成人であった。

4)起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数

昨年同様、家庭用品、医薬品については5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが多く、それぞれ84%、79%であるが、農業用品については20歳以上の成人の問い合わせが78%と多かった。

5)発生場所別 受信件数

92%が自宅、知人宅などの居住内で発生しており、例年同様多かった。

6)起因物質数別 受信件数

単独物質の事故が94%で、残りが複数物質の曝露であった。なかには9種以上の物質の曝露による問い合わせもみられ、最大は16種の物質を曝露した問い合わせであった。

7)患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ

各年齢層において、誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故が多い。特に5歳以下の乳幼児ではほぼ100%、65歳以上の高齢者では89%が不慮の事故であった。一方、13~19歳、20~64歳では他の年齢層と比較して故意の事故の割合がそれぞれ48%、31%と高かった。

8)年齢層別 摂取経路別 受信件数

複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。例年同様、5歳以下の乳幼児では経口摂取が94%と多く、他の年齢層に比べると、吸入や眼の事故の占める割合が低かった。

9)起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無

例年同様、13~64歳の年齢層では12歳以下の小児に比べて有症状率が高く、家庭用品以外では64~86%に何らかの症状がみられた。

10)起因物質分類別 受信件数上位品目

 (1)誤飲・誤食等について
5歳以下の乳幼児では化粧品による事故が最も多く、次いでタバコ関連品であった。各起因物質分類において、上位品目となっていた起因物質の順位については多少変動があるものの、起因物質の品目については例年同様で大差はなかった。

 (2)自殺企図について
自殺企図では例年同様、医療用・一般用医薬品の中枢神経系用薬が全体の約半数を占め、家庭用品の洗浄剤、農業用品の殺虫剤がそれに続いている。

11)品目別 受信件数

大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。全体的に大きな変動はみられなかった。
家庭用品では、昨年増加したタバコ関連品が減少した。塩化カルシウム含有乾燥剤(除湿剤)の問い合わせが昨年と比べて約1.8倍に増加した。新型インフルエンザの流行により昨年増加した速乾性擦式消毒剤を集計する除菌剤・消毒剤の問い合わせは昨年と同様であった。虫よけ芳香剤の登場により増加している家庭用品の忌避剤,誘引剤の問い合わせは引き続き増加した。
また、2剤の薬剤混合により発生した硫化水素の問い合わせ件数は昨年と比べて半数程度に減少した。
その他、乱用薬物,ストリートドラッグの件数は昨年とほぼ同様であったが、ハーブを謳った商品など、成分が特定できない商品に関する問い合わせ件数が増加した。
なお、2004年の規制緩和措置により新範囲医薬部外品に移行された品目は一部を除き家庭用品として集計している。

12)発生時刻分布

中毒事故の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。
JPICへの問い合わせ状況からみる限りでは、事故発生は昨年同様、午前8時から午後10時の生活時間帯に多く、ピークは午前10時台と午後6時台となっている。

13)動物の中毒に関する受信件数

動物の急性中毒に関する問い合わせは598件であった。


(1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ
医療機関からの問い合わせは年々減少傾向にある。

(2)起因物質分類別 受信件数上位品目
動物では殺虫剤、中枢神経系用薬、乾燥剤・鮮度保持剤、植物などの問い合わせが多かった。

おわりに

問い合わせがあった起因物質や事故発生状況の傾向は、例年とほぼ同様の結果を示した。
JPICの一般市民に対する情報提供料の無料化を開始した2006年9月以降、一般市民専用電話への問い合わせ件数は年々増加傾向にあったが、2010年は昨年とほぼ同様であった。このことから情報提供料の無料化は一般市民に定着したものと考えられる。
JPICの活動も2011年に25周年を迎える。今後も、中毒110番業務はもとより、2006年から開始した医薬品による副作用など緊急の安全性に関する情報提供や2008年から開始した消費生活用製品による重大事故に関する情報提供を迅速かつ充実した内容で実施できるようさらに体制を強化し、中毒事故防止活動をより一層進めたい。
最後に中毒110番の問い合わせ電話番号およびホームページアドレスを紹介する。

[電話]
・一般市民専用電話 (情報提供料無料、通話料のみ)

       (大 阪) 072-727-2499
             365日  24時間対応
       (つくば) 029-852-9999
             365日  9~21時対応

・医療機関専用有料電話 (情報提供料:1件につき2,000円)
       (大 阪) 072-726-9923
             365日  24時間対応
       (つくば) 029-851-9999
             365日  9~21時対応

・賛助会員専用電話 
       賛助会員(医療従事者、医療機関、行政など)にのみ電話番号を通知する、年1回更新

・たばこ専用自動応答電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
        072-726-9922
        365日  24時間対応
       (テープによる情報提供)

[ホームページ]
http://www.j-poison-ic.or.jp
(ミラーサイト http://wwwt.j-poison-ic.or.jp

なお、賛助会員、ホームページ会員についての資料請求は、以下へFAXにてお申し込み下さい。
公益財団法人 日本中毒情報センター
本部事務局 FAX:029-856-3533