2016年受信報告

公益財団法人 日本中毒情報センター

はじめに

公益財団法人日本中毒情報センター(以下JPICと略す)は2016年に設立30周年を迎えることができ、電話による情報提供を開始した1986年9月9日からの問い合わせ件数は130万件を超えた。多くの方々のご支援に深謝の意を表する。
5月に開催された伊勢志摩サミットにおいては、JPICは厚生労働省をはじめ関係機関と連携し救急医療対応体制における医療対策本部NBC班の一員として、開催期間中は不測の事態に備えて医療対策本部で待機した。また、昨年同様、厚生労働省の委託事業「NBC災害・テロ対策研修」も2回主催し、2006年の開始時から11年間(23回)で277医療チームの研修を終了した。
2016年は化学物質による死亡事故が相次いだ年でもあった。埼玉県の工場で硝酸を使用してタンクに付着した銀を洗浄していたところタンクが破裂して2名が死亡した事故、福井県の化学薬品会社のタンクで硫化水素を取り除く作業をしていた作業員1名が死亡した事故、長崎県のトンネル内で補修工事を行う際にガソリン式発電機を使用し発生した一酸化炭素により作業員1名が死亡した事故が発生した際、JPICではホームページによる情報発信を行い、迅速に対応した。
さて、JPICでは情報提供手段として、オペレーターによる電話応答と、たばこ専用自動応答電話、インターネット、書籍、CD-ROMなどを引き続き活用している。2016年のたばこ専用自動応答電話の利用件数は6,956件(1日約19件)であった。インターネットのJPICホームページへのアクセスは、一般市民向けではミラーサイトも含め約20万件を数えた。会員向けホームページへのアクセスは約5,400件、企業会員向けは約2,300件であった。
本稿の報告対象は、オペレーターによる電話応答での受信記録のみであるが、すべて昨年同様の方法で集計解析し、その結果を以下に報告する。

1.集計方法

 集計の対象は、2016年1月1日から2016年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ34,201件である。受信データには一般市民専用電話、医療機関専用有料電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。なお、対象には「たばこ専用自動応答電話」の利用件数6,956件は含まない(この件数を加えると2016年1年間にJPICが受信したたばこに関する問い合わせ件数は9,803件となる)。起因物質について、昨年と同様、複数物質の場合でも、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。また、ペットなどの動物による急性中毒事故に関する問い合わせは330件であり、別途集計した。なお、各表中の数値は表示単位未満を四捨五入しているため、合計が一致しない箇所がある。

2.集計内容とその結果

1)都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ

  対人口10万比は例年と比べて全国的に大きな変動はみられなかった。また、大阪およびつくば中毒110番の位置する近畿および関東からの問い合わせ比率は、例年同様に高かった。

2) 起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ

 問い合わせの89%が一般市民からで、医療機関からは8%であった。
 例年同様の傾向であるが、家庭用品に関する問い合わせは60%で、いずれの連絡者においても多く、次いで医薬品が31%で昨年とほぼ同様であった。

3)患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ

 全体をみると、5歳以下の問い合わせが77%を占め、対人口10万比では他の年齢層の50~100倍に相当するという例年同様の構成比を示した。
 連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の問い合わせが83%を占め、医療機関では20~64歳と65歳以上の問い合わせが合計52%であった。その他(高齢者施設、薬局、学校、保健所、消防など)では65歳以上が42%であった。

4)起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数

 患者の性別については家庭用品、医療用医薬品、一般用医薬品、自然毒において20~64歳は女性が多かった。年齢層別では、家庭用品、医療用医薬品、一般用医薬品については5歳以下の問い合わせがいずれも80%程度と多いが、農業用品については20~64歳と65歳以上の問い合わせが合計75%と多かった。

5)発生場所別 受信件数

 91%が自宅、知人宅などの居住内で発生しており、例年同様多かった。

6)起因物質数別 受信件数

 単独物質の事故が93%で、複数物質の曝露7%の多くは医薬品の多剤曝露であった。

7)患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ

  各年齢層において、誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故が多い。とくに5歳以下ではほぼ100%、65歳以上では91%が不慮の事故である。

8)年齢層別 摂取経路別 受信件数

  複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。例年同様、5歳以下では経口摂取が90%と多く、他の年齢層に比べると、吸入や眼の事故の占める割合が低かった。

9)起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無

 すべての起因物質において、5歳以下の有症状率は3割未満であったが、20~64歳では5割を超えていた。

10)起因物質分類別 受信件数上位品目

 (1)誤飲・誤食等について
 5歳以下において、家庭用品では化粧品による事故が最も多く、次いでたばこ関連品であった。医療用医薬品と一般用医薬品ではともに中枢神経系用薬が最も多かった。そのほかの各起因物質分類において、上位品目となっていた起因物質の順位については多少変動があるものの、起因物質の品目については例年同様で大差はなかった。

 (2)自殺企図について
 自殺企図1,097件では例年同様、医療用・一般用医薬品の中枢神経系用薬が全体の約半数を占め、家庭用品の洗浄剤、農業用品の殺虫剤がそれに続いている。

11)品目別 受信件数

  大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。家庭用品はたばこ関連品のその他のたばこが昨年26件から444件に増加し、たばこ関連品の約16%を占めた。地域限定発売であった加熱式たばこが、2016年4月より全国で販売開始されたことが件数増加の一因と考えられる。そのほか、保冷剤は昨年の806件から970件に増加した。また、食品、その他で食品のうち飲料用アルコールが昨年の279件から381件に増加した。乱用薬物、ストリートドラッグに関する問い合わせは、昨年の11件とほぼ同じ12件であった。

12)発生時刻分布

 中毒事故の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。
JPICへの問い合わせ状況からみる限りでは、事故発生は例年同様、午前7時から午後10時の生活時間帯に多く、ピークは午前9時から午前10時台と午後6時から午後7時台となっている。

13)動物の中毒に関する受信件数

  動物の急性中毒に関する問い合わせは330件であった。
(1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ

(2)起因物質分類別 受信件数上位品目
 動物では殺虫剤、植物、乾燥剤・鮮度保持剤、中枢神経系用薬などの問い合わせが多かった。

おわりに

問い合わせがあった起因物質や事故発生状況の傾向は、全体としては例年とほぼ同様の結果を示した。
たばこ関連品では、その他のたばこが昨年までと比べ件数が増加していた。洗濯用パック型洗剤が発売された際と同様、新しい製品が発売されるとJPICへの問い合わせが急増することが加熱式たばこでも確認された。今後も日々の問い合わせの動向を注視して、トキシコビジランスの役割を果たしたい。
JPICでは「中毒110番」の30年間の問い合わせ実績と経験を基に、プレホスピタルにおける対応とその解説をまとめた書籍「発生状況からみた急性中毒初期対応のポイント」を9月に発刊した。一般市民からの問い合わせ頻度の高い家庭用品について、実際に事故が発生した際に相談を受けた医師や薬剤師、看護師等が、応急手当や受診の必要性について的確に判断するために用いることを想定している書籍であり、ぜひ活用していただきたい。
中毒110番体験研修は、受信報告に示すような様々な起因物質の問い合わせ対応を、実際に体験していただける。後期臨床研修医や薬剤師を含む医療従事者を対象として今後も引き続き実施する予定であり、多くの先生方にご参加いただけることを願っている。(研修内容、申込先等の詳細についてはJPICホームページに掲載)。
最後に中毒110番の問い合わせ電話番号およびホームページ、Twitterアドレスを紹介する。

 

  [電話]
    ・ 一般市民専用電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
       (大 阪) 072-727-2499
             365日  24時間対応
       (つくば) 029-852-9999
             365日  9~21時対応

    ・ 医療機関専用有料電話 (情報提供料:1件につき2,000円)
       (大 阪) 072-726-9923
             365日  24時間対応
       (つくば) 029-851-9999
             365日  9~21時対応

    ・ 賛助会員専用電話 
       賛助会員(医療従事者、医療機関、行政など)にのみ電話番号を通知する、年1回更新

    ・ たばこ専用自動応答電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
            072-726-9922
            365日  24時間対応

  [ホームページ・Twitter]
http://www.j-poison-ic.or.jp
   (ミラーサイト http://wwwt.j-poison-ic.or.jp
   Twitter:https://twitter.com/JPIC_Poisoninfo

 なお、賛助会員、ホームページ会員についての資料請求は、以下へお申し込み下さい。
    公益財団法人 日本中毒情報センター
     本部事務局 FAX:029-856-3533
           E-mail:head-jpic@j-poison-ic.or.jp