2002年受信報告

公益財団法人 日本中毒情報センター

はじめに

(財)日本中毒情報センター(JPIC)の活動も2002年で16年目を迎えた。電話応答では、2002年9月9日よりつくば中毒110番が午後9時まで相談受付時間を延長した。午前9時~午後9時に大阪中毒110番とともに2箇所で相談受付に対応することにより、電話がつながりにくい状況が少し解消された。また、昨年度に引き続き、厚生労働省の委託を受け、化学災害研修「毒劇物テロ対策セミナー」を諸先生方のご協力のもと2002年12月に開催し、全国の救命救急センター、災害拠点病院の医師や分析担当者の方々に多数ご参加いただくことができた。
さて、JPICでは情報提供手段として、オペレーターによる電話応答と、タバコ専用電話(テープによる情報提供)、ファクシミリを利用した自動応答システム、インターネット、書籍、CD-ROM等を引き続き活用している。2002年のタバコ専用電話の利用件数は13,539件(1日約37件)で、賛助会員向けファクシミリ自動応答システムの利用件数は60件であった。また、インターネットのJPICホームページへのアクセスは一般向けではミラーサイトも含め約77,000件、会員向けでは約4,000件であった。
「会員向けホームペ-ジ」は賛助会員以外の方にも利用していただくために、医療機関、消防、保健・福祉施設、医療行政等に勤務する医療従事者を対象に「ホームページ会員」の募集を開始した。それに伴い「会員向けホームページ」の内容を充実させ、要望の多かった「医師向け中毒情報データベース」を新規掲載、「解毒剤情報」の追加更新を行い、新着情報として「マジックマッシュルーム」、「マスタードガスとクロロアセトフェノン」、「リシン」に関する情報を掲載した。
本稿の報告対象となるのは、オペレーターによる電話応答での受信記録のみであるが、すべて昨年同様の方法で集計解析し、その結果を以下に報告する。

1. 集計方法

集計の対象は、2002年1月1日から2002年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ36,578件である。受信データにはダイヤルQ2、医療機関専用電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。なお、対象には「タバコ専用電話」の利用件数13,539件は含まない(この件数を加えると2002年1年間にJPICが受信したタバコに関する問い合わせ件数は17,551件となる)。起因物質については、昨年と同様、複数物質を摂取した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。

2. 集計内容とその結果

1)都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ

両中毒110番の位置する関東および近畿からの問い合わせ比率は例年同様に高い。

2) 起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ

例年同様の傾向であるが、いずれの連絡者においても家庭用品に関する問い合わせが最も多い。特に一般市民からの問い合わせはその割合が73%と圧倒的に高い。医療機関からは家庭用品以外の問い合わせも約半数あり起因物質の多様性がみられた。

3)患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ

全体をみると、5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが76%を占め、対人口10万比では他の年齢層の50~100倍に相当するという例年同様の構成比を示した。
連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが9割以上を占め、医療機関では約半数の問い合わせが20歳以上の成人であった。

4)起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数

例年同様、家庭用品・医薬品については5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが多いが、農業用品については20歳以上の成人の問い合わせが79%と圧倒的に多い。

5)発生場所別 受信件数

自宅、知人宅などの居住内で89%が発生している。

6)起因物質数別 受信件数

単独物質の事故が96%で、残り4%が複数物質の曝露である。中には9種以上の物質の曝露による事故も認められる。

7)患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ

各年齢層において、誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故が多い。特に5歳以下の乳幼児では99%以上が誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故である。しかし、年齢層が高くなると、故意の事故率が増加している。

8)年齢層別 摂取経路別 受信件数

複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。昨年同様、全身曝露は成人のみでなく5歳以下の乳幼児でも認められた。また、5歳以下の乳幼児では他の年齢層に比べ、吸入事故の占める割合が少ない。 

9)起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無

昨年同様、13歳以上の年齢層では12歳以下の小児に比べて有症状率が高く、特に家庭用品以外では大半で何らかの症状が認められている。

10)起因物質分類別 受信件数上位品目

 (1)誤飲・誤食等について

各起因物質分類において、上位品目となっていた起因物質の順位については変動があるものの、上位品目となる起因物質の種類については例年と同様で大差はなかった。
5歳以下の乳幼児ではタバコが最も多いが、昨年より減少している。

 (2)自殺企図について
自殺企図では例年同様、医療用・一般用医薬品とも中枢神経系用薬が非常に多く、殺虫剤がそれに続いている。

11)品目別 受信件数

医療用医薬品に年々問い合わせが多くなっている抗うつ薬のSNRI(セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害剤)などの品目を追加した。
家庭用品では防虫剤が減少し、自然毒ではマジックマッシュルームの問い合わせが2001年は55件であったが33件と減少した。
医薬品の中枢神経系用薬に関する問い合わせが年々増加しているが、医療用では一般市民より医療機関からの問い合わせが多く、一般用ではほぼ同数だった。また、患者年齢は他の品目に比べて20~64歳の成人の割合が高い。

12)発生時刻分布

中毒事故の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。
JPICへの問い合わせ状況からみる限りは、事故発生は午前8時から午後10時の生活時間帯に多く、ピークは午前10時と午後6時となっている。

13)動物の中毒に関する受信件数

動物の急性中毒に関する問い合わせは712件であった。

(1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ

(2)起因物質分類別 受信件数上位品目
動物では殺虫剤、乾燥剤・鮮度保持剤などの問い合わせが多い。

おわりに

問い合わせがあった起因物質や事故発生状況の傾向は、例年とほぼ同様の結果を示した。
マジックマッシュルームは1997年に受信して以来、2002年に初めて受信件数が減少した。6月の政令の改正により、麻薬として規制されるようになったことを反映していると考えられる。33件中規制後に問い合わせがあったのは2件であった。
今後も、一般市民、医療機関およびその他の機関への情報提供に関し、オペレーターによる電話応答のみでなく、インターネット、ファクシミリ等の多くの媒体を利用し、より早くより正確に情報を提供できるよう、体制の強化を図り需要に応えたい。また、昨年に引き続き、問い合わせの6割以上を占める家庭用品による事故に関して、発生状況等を詳細に分析し、発生要因を明らかにすることによって、事故防止に貢献していきたいと考える。最後に中毒110番の問い合わせ電話番号およびホームページアドレスを紹介する。なお、2002年9月に大阪中毒110番の事務所が移転したため、電話番号が一部変更になったことを追記する。

電話
・中毒110番 (大 阪)0990-50-2499(ダイヤルQ2)365日  24時間対応
      (つくば)0990-52-9899(ダイヤルQ2)365日 9~21時対応
・医療機関専用有料電話 (大 阪)072-726-9923  365日  24時間対応
            (つくば)029-851-9999  365日  9~21時対応
・賛助会員専用電話 賛助会員(病院、企業、行政等)にのみ電話番号を通知する、年1回更新
・タバコ専用電話  072-726-9922  365日  24時間対応(テープによる情報提供)

ホームページ http://www.j-poison-ic.or.jp
(ミラーサイト  http://wwwt.j-poison-ic.or.jp)

なお、賛助会、ホームページ会員についての資料請求は、以下へFaxにてお申し込み下さい。
財団法人日本中毒情報センター 本部事務局 FAX:029-856-3533