2018年受信報告

公益財団法人 日本中毒情報センター

はじめに

公益財団法人日本中毒情報センター(以下JPICと略す)では、中毒110番でのオペレーターによる電話応答のほか、たばこ専用自動応答電話、Webサイト、書籍、DVD-ROMなどを活用し、情報提供を行っている。
本稿では、中毒110番での電話相談の受信記録を中心に集計解析し、その結果を報告する。

1. 中毒110番受信記録

(1)集計方法

集計の対象は、2018年1月1日から2018年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ31,493件であり、すべて昨年同様の方法で集計解析した。受信データには一般市民専用電話、医療機関専用有料電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。起因物質について、昨年と同様、複数物質を曝露した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。また、ペットなどの動物による急性中毒事故に関する問い合わせは412件であり、別途集計した。なお、各表中の数値は表示単位未満を四捨五入しているため、合計が一致しない箇所がある。

(2)集計内容とその結果

1)都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ

対人口10万比は例年と比べて全国的に大きな変動はみられなかった。また、大阪およびつくば中毒110番の位置する近畿および関東からの問い合わせ比率は、例年同様に高かった。

2) 起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ

一般市民では、家庭用品が57%と最も多く、次いで医薬品が33%であった。医療機関では、医薬品が41%と最も多く、次いで家庭用品が38%であった。

3)患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ

全体をみると、5歳以下の問い合わせが74%を占め、例年同様の構成比を示した。連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の問い合わせが79%を占め、医療機関では成人(20~64歳、65歳以上)の問い合わせが53%を占めた。その他では、学校(保育所等を含む)および高齢者施設からの問い合わせが多く、年齢層別では65歳以上が36%であった。

4)起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数

家庭用品、医療用医薬品、一般用医薬品による成人の事故は、例年同様に女性が多かった。年齢層別では、家庭用品、医療用医薬品、一般用医薬品、食品,その他については5歳以下の問い合わせがいずれも7割以上であったが、農業用品および工業用品については成人の問い合わせが、それぞれ77%および47%であった。

5)発生場所別 受信件数

例年同様、自宅や知人宅などの居住内が91%と最も多かった。

6)起因物質数別 受信件数

単独物質の事故が92%で、残りが複数物質の曝露であった。最大は15種の医薬品を摂取した問い合わせであった。

7)患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ

各年齢層において、誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故が多かった。とくに5歳以下ではほぼ100%、65歳以上では92%が不慮の事故で例年同様の傾向を示した。

8)年齢層別 摂取経路別 受信件数

複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。例年同様、5歳以下では経口摂取が90%と多く、他の年齢層に比べると、吸入や眼の事故の占める割合が低かった。

9)起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無

すべての起因物質において、5歳以下の有症状率は3割未満であったが、20~64歳では5割を超えていた。

10)起因物質分類別 受信件数上位品目

 (1)誤飲・誤食等について
5歳以下において、家庭用品では化粧品による事故が最も多く、次いでたばこ関連品であった。医療用医薬品と一般用医薬品ではともに中枢神経系用薬が最も多かった。そのほかの各起因物質分類において、上位品目となっていた起因物質の順位については多少変動があるものの、起因物質の品目については例年同様で大差はなかった。

 (2)自殺企図について
自殺企図989件では例年同様、医療用・一般用医薬品の中枢神経系用薬が全体の約半数を占めた。

11)品目別 受信件数

大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。家庭用品では、加熱式たばこを含むその他のたばこは、急増した昨年とほぼ同じであったが、紙巻きたばこ(吸い殻や浸出液を含む)は減少した(4.トピックス参照)。そのほか、おもちゃが 2016年602件、2017年709件、2018年829件と増加しており、スライムに代表される感触を楽しむ玩具の問い合わせが多かった。医療用医薬品では、ベゲタミン®(精神神経用剤:フェノチアジン系+バルビツール酸系)が2017年3月31日に供給停止、2018年3月31日に経過措置期間が終了したことに伴い、2016年32件だった問い合わせが、2017年14件、2018年3件と減少した。工業用品ではホウ酸が昨年の25件から63件に増加し、手作りスライムに使用するホウ酸の溶解液をペットボトルなどに入れていたため間違えたという問い合わせが多かった。乱用薬物、ストリートドラッグに関する問い合わせは6件であり、うち3件は海外の痩身薬を子どもが誤飲した問い合わせであった。

12)発生時刻分布

中毒事故の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。JPICへの問い合わせ状況からみる限りでは、事故発生は例年同様、午前7時から午後10時の生活時間帯に多く、ピークは午後5時から午後8時台となっている。

13)動物の中毒に関する受信件数

動物の急性中毒に関する問い合わせは412件であった。


(1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ

(2)起因物質分類別 受信件数上位品目
動物では殺虫剤、植物、食品、中枢神経系用薬などの問い合わせが多かった。

2.たばこ専用自動応答電話

2018年のたばこ専用自動応答電話の利用件数は4,285件(1日約12件)であった。この件数を加えると2018年1年間にJPICが受信したたばこに関する問い合わせ件数は6,575件となる。

3.Webサイト

JPICのWebサイトへのアクセスは、一般市民向けは約17万件、会員向けは約6,000件、企業会員向けは約2,600件であった。なお、2019年5月7日にリニューアルを行い、医療関係者向けの中毒情報を充実させた。今後は、Webサイトでの症例登録システムを構築するとともに、中毒症例提示データベースの充実を図り、Webサイトの利用を促進させていきたい。

4.トピックス

加熱式たばこ
加熱式たばこは、たばこ葉が入ったカートリッジを専用の加熱用器具にセットし、電気的に加熱して発生した蒸気を吸引する新しいタイプのたばこである。国内では2014年11月に地域限定で発売され、2016年4月に全国発売された。2019年7月現在、4社から発売されている。加熱式たばこを摂取した場合は、紙巻きたばこ同様、ニコチンが問題となる。
加熱式たばこの月別受信件数を紙巻きたばこの件数とともに図2に示す。加熱式たばこの問い合わせは2015年9月に初めて受信した。その後、全国発売となった2016年4月以降増加し、2017年10月以降は紙巻きたばこの相談件数を上回って推移している。2018年は紙巻きたばこの受信件数978件に対し、加熱式たばこの受信件数1265件であった。年齢層別では、5歳以下の小児の誤飲事故が9割を占め、特に1歳前後の事故が多かった。加熱式たばこは火を使わないため、使用後のカートリッジをゴミ箱に捨てるケースも多く、子どもがゴミ箱から拾って誤飲する事故も発生している。成人では、使用後のカートリッジをペットボトルなどの飲料容器に入れていたため誤飲した事故が、9割を占めた。
JPICでは引き続き受信状況や中毒症例を収集し、事故防止のための注意喚起を継続していきたい。また、中毒事故が発生し医療機関からJPICへ問い合わせを受けた場合は、メーカーから提供されたニコチン量の情報を提供することが可能である。是非、JPICへお問い合わせいただきたい。

おわりに

問い合わせがあった起因物質や事故発生状況の傾向は、全体としては例年とほぼ同様の結果を示した。JPICでは引き続き新しい製品による事故動向を速やかに察知し、製造事業者や行政との連携をさらに強化して事故情報を共有するとともに、WebサイトやTwitterで事故防止につながる情報発信を的確に行っていきたい。
また、2016年9月に発刊し、ご好評をいただいている「発生状況からみた急性中毒初期対応のポイント~家庭用品編」の続編「農薬・工業用品・化学剤編」を2020年に発刊予定である。実際に事故が発生した際に相談を受けた医師や薬剤師、看護師のほか、保健師や介護福祉士など様々な職種の方々にぜひ活用していただきたい。

後期臨床研修医や薬剤師を含む医療従事者を対象とした中毒110番体験研修は今後も引き続き実施する予定であり、多くの先生方にご参加をお願いしたい(研修内容、申込先等の詳細についてはWebサイトを参照)。
最後に中毒110番の問い合わせ電話番号およびWebサイト、Twitterアドレスを紹介する。

[電話]
    ・ 一般市民専用電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
       (大 阪) 072-727-2499
             365日  24時間対応
       (つくば) 029-852-9999
             365日  9~21時対応

    ・ 医療機関専用有料電話 (情報提供料:1件につき2,000円)
       (大 阪) 072-726-9923
             365日  24時間対応
       (つくば) 029-851-9999
             365日  9~21時対応

    ・ 賛助会員専用電話 
       賛助会員(医療従事者、医療機関、行政など)にのみ電話番号を通知する、年1回更新

    ・ たばこ専用自動応答電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
            072-726-9922
            365日  24時間対応

[Webサイト・Twitter]
 Webサイト:https://www.j-poison-ic.jp
 Twitter:https://twitter.com/JPIC_Poisoninfo

なお、賛助会員についての資料請求は、以下へお申し込み下さい。
    公益財団法人 日本中毒情報センター
     本部事務局 FAX:029-856-3533
           E-mail:head-jpic@j-poison-ic.or.jp